創夢・創造の現場から

第2回

期待が高まるIPv6の普及に向け
知識とノウハウの蓄積が他社にない強みに

IPv6の議論が日本で開始された20年近く前から、株式会社創夢(以下創夢)はその技術に深く関わってきました。日本のインターネット技術をリードしてきたWIDEプロジェクトへの参加などを通してIPv6の発展、普及、展開についての一定の役割を果たしてきたと自負しています。IPv6の技術と経験は、他社にはない創夢の強みであるといえます。(2010年5月取材)


「最近では、ネットワーク周りの開発案件でIPv6の機能を入れるかどうかを顧客と相談するのは普通のことになってきていると思います」と話すのは、第三開発部部長 井上潔。創夢は以前からIPv6の利用に積極的に取り組んでいます。社内LANはもう何年も前からIPv4/IPv6のデュアルスタックがデフォルトのプロトコルとなっており、創夢がインターネットで公開している会社のWebサイトは、IPv6を推進する国際団体であるIPv6 Forumから2009年に「co.jp」ドメインとして日本で最初にIPv6 enabledの認証を受けています。

IPv6に関する深い知識と経験は、創夢の明確な強みの1つです。

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取締役 松山直道(まつやま ただみち)と第三開発部部長 井上潔(いのうえ きよし)の出会いは1992年頃、井上のWIDEプロジェクト参加に遡る。その後井上は創夢に入社。2001年にはIPv6の啓蒙を目的としたセミナーを松山から井上へリレーする形で主催したこともあった。

ネットワーク関連の開発を手がける機会が多い井上は、IPv6はすでに特に意識することなく普通にサポートするプロトコルのひとつとなっていると語る。

(所属・役職は取材当時のもの)


IPv6の発展、普及、展開に参加

インターネットで現在おもに使われているIPv4は、あと1〜2年でアドレスを使い切ってしまうと言われています。その解決策として登場したのがIPv6です。

IPv6についての議論が始まったのは、日本でインターネットの商用利用が始まるよりも古く、1990年代前半にはすでにIPv4のアドレス枯渇についての心配と、その解決策としてのIPv6(当時はIPng)の議論が始まっていました。

当時、日本でインターネットの普及と構築をリードしていた団体であるWIDEプロジェクトの中にもIPngに関するワーキンググループがあり、創夢からは多いときで5人の技術者が参加して議論や情報収集などの活動を行っていました。創夢とIPv6のつながりはこのときからです。

当時からWIDEプロジェクトに参加し、創夢でIPv6の活動をリードしてきた取締役 松山直道は、これらの取り組みの意味を次のように話しています。「日本においてIPv6の発展、普及、展開にどう関与できるか、を考えてWIDEプロジェクトなどに早くから参加してきました。ある意味で、IPv6をどう普及させていくのか、といったことを検討する役割を自認しているところがあります」。もちろんビジネス上の意味についても「IPv6の技術や製品の普及を自分たちなりにやっていくことは、現在、将来のお客様に対する私たちの強みでもあります。来年あたりからはIPv6も大きなチャンスとなってくるでしょう」と語ります。

すでに創夢が受託開発を手がけているキャリア向けのスイッチなどにはIPv6機能はあって当たり前になっており、最近では家電機器にもIPv6が入り始めています。創夢が持つIPv6のノウハウは多くの開発案件で活用されています。

IPv6はどこが優れているのか?

IPv6はIPv4よりどこが優れているのでしょう。取締役 松山直道は「技術的に言えばグローバルアドレスがほぼ無制限に利用できるところ、IPv6とIPv4のもっとも大きな違いはそこです」と説明します。一般に、特定の組織内でIPv4を用いるときにはNAT(Network Address Translation)によって変換を行いますが、変換には制限があり、例えば大規模な顧客を抱えるケーブルテレビ局などでは問題となる可能性があります。今後さまざまなサービスがネットワーク経由で展開されることを考えれば、グローバルアドレスがほぼ無制限に使えるIPv6への対応は重要性を増していくでしょう。

それに加えてIPv6の自動コンフィグレーション機能を優れている点として挙げたのは第三開発部部長 井上潔。「最近はセンサーをネットワークに接続し、機器の電力使用量や気象情報などを測定する用途が増えています。IPv6では自動コンフィグレーション機能があるため、電気的に配線できれば自動的に設定が行われ、あとからちゃんとつながっていることが簡単に確認できます」。家電機器など一般利用者がネットワークを利用するときに、設定の難しさは大きなハードルとなります。IPv6は利用者にやさしいネットワークの構築にも威力を発揮するわけです。

創夢では第一開発部副部長 藤田和利が、限られた計算機資源でも動作するIPv6プロトコルスタックの参照実装を開発するなど、組み込みなどへの対応も得意としています。

もちろん、自動コンフィグレーションは通常のサーバなどを運用する場合でも管理者の手間を楽にしてくれると、運用技術部シニアプロジェクトマネージャ 湯川隆広も言います。


主なIPv6関連業務の実績(2010年5月現在)

  • 製品開発受託
    • 通信キャリア向けIPv6対応ネットワーク機器(L2スイッチ・L3スイッチ)開発
    • Renesas SH775X(SH4)+ NetBSD
    • AMCC PPC440/460(PowerPC BookE)+ NetBSD
  • 製品開発受託
    • IPv6対応IPセットトップボックス組み込み開発
    • MIPS32 + Linux
  • 製品開発受託
    • オフィス用事務機器向け組み込みIPv6プロトコルスタック機能改造
    • オフィス用事務機器向け「IPv6 Ready Logo」取得開発支援
    • Freescale MPC85XX(PowerPC BookE)+ NetBSD
  • 研究開発支援
    • 総務省特定領域重点型研究開発課題「IPv6やセキュリティを考慮した高性能基盤アプリケーションの研究開発」支援作業
  • 研究開発支援
    • IPv6仕様適合性評価ツール開発
    • Intel x86 + FreeBSD
  • 研究開発支援
    • Mobile IPv6を使用した移動ネットワークシステム研究開発
    • XScale PXA2XX(ARMv5TEF)+ NetBSD
  • 研究開発支援
    • 組み込み機器向け小規模IPv6プロトコルスタックサンプル実装開発
    • Intel x86 + NetBSD
  • 研究開発支援
    • IPv6対応家庭用ルータ機能プロトタイプ開発
    • Intel x86 + FreeBSD
  • 研究開発支援
    • IPv6パーソナルビデオ通信システムプロトタイプ開発
    • Intel x86 + FreeBSD
  • プロジェクト参加・支援
    • WIDEプロジェクトIPv6研究ワーキンググループ参加(1996/3〜)
    • IPv6普及・高度化推進協議会法人会員(2002/1〜)
    • IPv4アドレス枯渇対応タスクフォース活動協力(2008/9〜)
  • 自社主催技術セミナー
    • 「次世代インターネット技術の現状と今後 〜なぜ今、IPv6か〜」(2001/3)
  • 自社ネットワーク環境運用
    • 社内ネットワーク環境IPv4/IPv6デュアルスタック化(1997/3〜)
    • 公式WebサイトIPv4/IPv6デュアルスタック化(2000/11〜)
    • 公式Webサイト「IPv6 Enabled WWW Logo」取得(2009/6)
  • 雑誌/書籍記事執筆
    • BSD magazine 2001年 No.8(アスキー出版)「IPv6でインターネットにつなごう!」
    • Software Design 2002年3月号(技術評論社)特集記事「IPv6時代のTCP/IP」
    • FreeBSD Expert 2003年度版(技術評論社)「IPv6 and IPv4 Overview」他
    • TCP/IPネットワークExpert 2003年8月発行(技術評論社)「すっきりわかるIPv6の謎」
    • Software Design 2006年3月号(技術評論社)特集記事「IPv6再入門」



IPv6がコンシューマやエンタープライズで使えるのか見届けたい

IPv6の普及は数年後にもやってくるといわれています。現在、多くのUNIXサーバ、Windows 7などの最新OS、そして一部の組み込み機器や家庭用デバイスなどにはIPv6機能が備わっています。

その一方で、IPv6は新しい仕様ゆえにまだ一部の細かな仕様が変更される可能性もあり、さらにはIPv4と比較して仕様の一部は複雑化している、といった難しさもあります。「IPv6が普及することで分かってくる新たな問題も出てくるかもしれない」(取締役 松山)といった懸念も残っています。

創夢は自社でのIPv6プロトコルスタックの開発や利用を行い、知識と経験を蓄積してきました。またWIDEプロジェクトなどとの関わりを通して最新技術の取得にも継続的に取り組んでいます。これからIPv6に関わる企業や組織に対して適切な開発支援や助言、サポートなどを提供するビジネスへと、創夢はIPv6の普及に伴って大きく踏み出すことになるでしょう。

そして、「コンシューマ製品やエンタープライズでIPv6を問題なく使っていけるのか、見届ける役割を創夢が担いたい。そのために新たなものを作らなければならないというのであれば、自分たちでその部分を開発しよう」(取締役 松山)と考えています。

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IPv6プロトコルスタックの独自実装の経験もある第一開発部副部長 藤田和利(ふじた かずとし)は機会があれば経験を活かしてまたスタックの実装をやってみたいという。

市販機器の対応以前からIPv6に取り組んできたという運用技術部シニアプロジェクトマネージャ 湯川隆広(ゆがわ たかひろ)は顧客の環境・機器のIPv6への対応はこれから数年内に行われるだろうと予測。

(所属・役職は取材当時のもの)