ネッタマ nettama = 水戸芸術館音楽部門のネットワークする猫、 タマ のページへようこそ!
ネッタマ 2003年 6月号
名曲の「異版」を聴く
水戸室内管弦楽団とミリヤム・コンツェンがメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲を演奏するというので、ずいぶん久しぶりに聴き直した。
ああ、いい曲だなあ、まるで泉がわき出るみたいに自然に音楽が流れて。
メンデルスゾーンの頭の中ではきっとこんこんと音楽があふれていて、音符に書き留めるのがおいつかなかったくらいじゃないのかな...
なんて思っていたら「とんでもない、僕がこの曲書くのにどれだけ苦労したかわかる?」とメンデルスゾーンの声が頭の中に響いてきてびっくりした。
そうだこの曲、名ヴァイオリニスト、ダーヴィドに依頼されてから完成するまで6年もかかったんだよね。
しかも初演のときはまだ草稿状態で、その後出版するまでにまたかなりの手が加えられて、ようやく僕たちが知っている今の姿になったという。
そんなことを思い出していたら、数年前にこの協奏曲に関する面白いCD が出ていたことを思い出し、さっそく入手することにした。
聴き慣れた現行版ではなく、1989年に再発見された初演時(1844年)の草稿、つまりオリジナル・ヴァージョンを使用した初録音、というものだ。
演奏はイザベル・ファン・クーレンのヴァイオリンとレフ・マルキス指揮する新アムステルダム・シンフォニエッタ(BIS-KKCC2273)。
僕が買った輸入盤の解説によると、現行版とはなんと120箇所もの違いがあり、それが一覧表になっている。
まずびっくりするのは第1楽章が現在の「アレグロ・モルト・アパッショナート(快速に、とても熱情的に)」ではなく
「アレグロ・コン・フォーコ(快速に、燃えるように)」と指示されていることだ。
実際の譜面上では、第1楽章のカデンツァをはじめソロ・パッセージの幾つかが違うといったわかりやすいものをはじめ、
ティンパニやオーボエが意外なところで聞こえてきたり、ソロ・パートにフルートが重ねられていたり、弦がアルコ(弓)で弾くところがピッチカートになっていたり、
さらには強弱記号や発想記号の微妙な違いなど、枚挙にいとまがない。
かなり細かいものが多いので、一覧表と出版譜と照らし合わせながら聴くといっそう面白い。
どっちの版がよいかの判断は聴く方にお任せしたいけれど、とにかく120個所ですよ、120個所。
曲のフォルムが完成した後でも、より効果的に、より説得力ある表現を求める作曲家の執念に頭が下がる思いだね。
メンデルスゾーンは、交響曲<イタリア>も初稿に納得が行かず改訂を施しており、2つの稿をガーディナー指揮ウィーン・フィルの演奏で聴き比べることができる
(グラモフォン- POCG10143)。苦労知らずの優等生的秀才、みたいなイメージを持たれるメンデルスゾーンが、実際にはどんな努力と苦闘をしていたか、こういう例を聴くとよくわかる。
メンデルスゾーンに限らず、大作曲家の名曲の「異版」は、創造者たちが自作に「完成」のハンコを押すまでの思考の軌跡をライヴに伝えてくれる貴重なドキュメントだ。
極端な例ではブルックナーがいるけど、ほかにもいろいろある。
たとえばグリーグのピアノ協奏曲のオリジナル稿(デルウィンガーのピアノ、広上淳一指揮ノールショッピング交響楽団、BIS-CD619 輸入盤)。
おいおい、頭のティンパニ・ロールに弦のピッチカートとチューバ、ホルンが重ねられてるぞ!
えっ、あのリリカルな第2主題がチェロじゃなくてトランペットで奏されてるっ!
さらにびっくりは、シベリウスのヴァイオリン協奏曲のオリジナル稿(カヴァコスのヴァイオリン、ヴァンスカ指揮ラハティ交響楽団、BIS-CD500 輸入盤)。
冒頭のオーケストレーションからして全然違うし、ソロは聴いたこともないパッセージを連発、
そこかしこにまったく未知のマテリアルが出現。
同じ盤に収められている現行版より5分も長い。
まだまだあるぞ。ヤナーチェク<グラゴル・ミサ>のオリジナル稿はいきなり現行版の終曲「イントラーダ」が轟いて始まるし -- 「イントラーダ」で全曲をとりかこむ、
いわば枠構造が意図されていたことがわかるのだ -- (マッケラス指揮デンマーク国立放送交響楽団、シャンドス- MCHAN9310)、
マーラーの交響曲第1番のオリジナルは1楽章多い5楽章構成だ(若杉弘指揮東京都交響楽団、フォンテック−FOCD9093 〜108 、
交響曲全集版)。ヴォーン・ウィリアムス<ロンドン交響曲>の、現行版よりずっと長いオリジナル稿も復活した。
大バッハの<マタイ受難曲>だって初期稿がある(樋口隆一指揮・明治学院バッハ・アカデミー、明治学院サービス BAMG0001 〜3)。
政治的な圧力によって改訂させられた20世紀的な例としてはショスタコーヴィチのオペラ<ムツェンスク郡のマクベス夫人>から<カテリーナ・イズマイロヴァ>への改訂の例がある。
それから... なんだかどれが「正しい」のかわからなくなってきたのでここらで打ち止め!
ネッタマ 2003年7月&8月号
ネッタマ 2003年4月&5月号
ネッタマ 2003年2月&3月号
ネッタマ 2002年12月&2003年1月号
ネッタマ 2002年11月号
ネッタマ 2002年10月号
ネッタマ 2002年 9月号
ネッタマ 2002年 7&8月号
ネッタマ 2002年 6月号
ネッタマ 2002年 5月号
ネッタマ 2002年 4月号 (スタッフ紹介を含む号はこちらです)
このページは皆さまからのご質問・ご意見・ご感想・ご要望・その他すべてで、発展させてまいります。
nettama@arttowermito.or.jp までお気軽にお送りください。
皆さまからのメールを、スタッフ一同(矢沢孝樹・中村晃・関根哲也・松田善幸・小島たまみ)お待ち申し上げております。
メールをお送りいただく際には、次のような内容・手順でご入力くださいますようお願いいたします。
1. ご質問・ご意見・ご感想などの本文
(1) 文字数の制限等はありません。
(2) 画像やワープロ文書等の添付ファイルは、お送りになる前にお問い合わせください。
(3) できればHTMLメール形式ではなく、テキストメール形式でお送りください。
2. 掲載を希望される方は必ず次の2項目をメールの本文の最初に付けてお送りください。
(1) 「ネッタマコーナーへの掲載を希望し、編集に協力いたします。」
(2) 「掲載の場合、投稿者名は『(ご氏名・ペンネーム等ご希望のお名前をご入力ください)』としてください。」
*上記2項目のご送信がない場合は、掲載はいたしません。なお、このページへの掲載は、世界中から多数のご利用を誇ります水戸芸術館の他の掲載文書と同様、各検索サイトからの検索を受ける設定とさせていただきますので、音楽や芸術・水戸芸術館の活動についてのご意見・ご感想を世界に発表されたい方には最適の場でございます。
Copyright ©2002-03
MITO ARTS FOUNDATION. All Rights Reserved. Created by TK.
Mail to: nettama@arttowermito.or.jp