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もうひとつの自伝 -- タイユフェール回想録
他のさまざまな表現のジャンル同様、音楽の世界においても、かつて使われていた「女流」や「女性」という枕詞はもう死語にしていいだろう。
芸術館に登場するアーティストの方々の顔ぶれを見ても、それはわかる。
5月にはヒューイットさんがすばらしいピアノを聴かせてくれた。
7月には、女性4人による弦楽四重奏団、パブロ・カルテットが登場する。
また、かつて子供のころ安永徹ヴァイオリン・クリニックを受講したこともある加藤直子さんが、リサイタルを行う。
水戸室内管弦楽団のメンバーはといえば、ヴァイオリン・パートのほとんどが女性。
そう、いまさらことわりを入れるまでもなく、音楽においてもふたつの性はそれぞれの個性を持ちながら同等にかけがえのない存在だ(いまだに女性団員を認めないオーケストラもあるし、女性の指揮者はまだ相対的には少数だけれど)。
しかし、歴史をさかのぼると、必ずしもそうではなかったことがすぐにわかる。
たとえば昔の女性の作曲家を何人僕たちは思い出せるだろうか?
ヒルデガルト・フォン・ビンゲン、バルバラ・ストロッツィ、ジャケ・ド・ラ・ゲール、ファニー・メンデルスゾーン、セシル・シャミナード、アンリエット・ルニエ...
うーん、まだまだたくさんいるとは思うのだけれど、「モーツァルト」や「ベートーヴェン」といった誰でも知っている名前が出てこないのはなぜか。
間違っても「男性の頭脳の方が作曲に向いているから」なんていう暴論に与したくはない。
そういう意見を言う人は、田中カレン、藤家溪子、グバイドゥーリナ等々、すぐれた女性の作曲家が続々登場している事実をどう説明するのだろう?
さらにポピュラー音楽においては?ケイト・ブッシュ、パティ・スミス、マドンナ、ビョーク、アラニス・モリセット、矢野顕子、椎名林檎...
すごいソングライター/ミュージシャンはいくらでもいる。
こう考えると、かつて社会が(今でも?)女性の表現に対して抑圧的だったということに最大の要因があるのだろうな、と思わざるを得ない。
精神に闇を抱えた夫とたくさんの子供をかかえて苦闘したクララ・シューマンや、夫によって作曲を禁じられたアルマ・マーラーの悲劇など、その抑圧の歴史を端的に物語るエピソードだ。
『ちょっと辛口タイユフェール回想録』(小林緑訳、春秋社)という本を読んだ。
ジェルメーヌ・タイユフェール(1892−1983)、20世紀をほとんどまるまる生きた「女性」作曲家だ。
彼女の曲は必ずしもメジャーではないけれど(ピアノ協奏曲やハープ・ソナタ、カンタータ<ナルシス>等々が代表作)プーランク、ミヨー、オネゲルらと同じ「6人組」の一人といえば思い当たる人も多いだろう。
彼女が自らの人生をふりかえったこの回想録、一気に読んでしまった。
まず、20世紀前半のパリを中心とした彼女と芸術家たちとの交流がまぶしい。
ストラヴィーンスキイと<春の祭典>をピアノ・デュオで演奏し、ティボーに恋し、ピカソに励まされ、ヴァレリーとカンタータを共同製作し、フリッツ・ラングの映画『メトロポリス』に驚き、チャップリンと親しくなり... 。
そんな華麗な交友関係の一方で、むしろ「名士」である自分にとまどい、はにかんでいるひとりのつつましい女性の姿が浮かび上がってくる。
彼女はくりかえし回想録の中で語るのだ、内気な自分は社交界に耐えられない、自分の音楽的な能力に自信がない、と... 。
そして胸が痛むのは、彼女もまた男たちからの抑圧に耐えねばならなかった、ということだ。
父は芸術に理解を示さず、こっそり音楽を学ぼうとするジェルメーヌをかばう母を暴力的に攻撃し続けた。
ジェルメーヌの2度の結婚は、いずれも不幸な結果に終わった。
どちらの夫も、“高名なタイユフェール夫人の夫”でいることに我慢がならず、病的な嫉妬で彼女をずたずたに引き裂いたのだ。
「その修羅場は、けなげな母を襲い、たいていは彼女が失神するまで続いた」
「想像を絶する暴力地獄の中で、私は涙にくれながら働いた」... 詳しくは書かれないもののこういう文章が彼女(たち)の苦難の大きさを物語り、男の一人である僕はやりきれなくつらい気持ちになる。
いったいどこの誰に、表現への押さえがたい意欲を抑圧し、けちをつけ引きずり下ろす権利があるというのだろう!
それでも、たくさんの男性が彼女を励まし、暖かい友情で包んだことはせめてもの救いだ。
最後にピカソが彼女にあてたこんな言葉を引用したい。
「ジェルメーヌ、毎朝、すてきなジェルメーヌ・タイユフェールでありますように。いつもの自分ではなく、常にゼロから始めること。
それがあなたを新しくするただ一つの手段だよ。そうしなければ、自分の“やり方”だけで終わってしまうよ。
それに囚われたりして、ね。そんなものはみんな飽きてしまうものだよ」
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こんにちは、ミロです。
タマさん、素敵な本のご紹介ありがとうございます。
ピカソって最高に素敵!
働く女性ネコのミロは、とても感動してしまいました。
急速にそうなって来たとはいえ、社会が柔軟で可能性に満ちたもので
あり続けるための基盤をふと考える動機、とてもよい記事だと思います。
音楽(創造)の宝箱 vivo 、これからもずっと楽しみにしています。
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ミロ
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