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ラルフ・タウナーの鉄の爪 -- 渡辺香津美
(水戸芸術館音楽紙 "vivo" 2001年7月号、および、
2001年7月15日 ラルフ・タウナー ギター・ソロ&デュオ featuring 渡辺香津美 プログラム掲載。)
初めてラルフのプレイを聴いたのは、彼が
*1ウエザー・リポートのアルバム『アイ・シング・ザ・ボディ・エレクトリック』に参加した盤だったと記憶している。その頃はレコード店で、話題の新作をプリビューさせてもらって気に入るのを探していた。彼の参加しているトラックに針が落とされたその瞬間... まるで天空から砕けた星のカケラが降ってくるような12弦ギターのサウンドは、僕の音楽心にその破片を刺した。気がついた時には何枚かの彼のアルバムを手にして店から飛び出していた。それからというもの「ソロ」や「オレゴン」での彼の仕事は、僕にとって20世紀で最も重要なギタリストのマスターワークとして欠かせない存在になった。海外のアーティストの動向を知るには、インターネット時代の今と違って雑誌やレコード位しか情報が無かった時代の話だ。その彼と共演する曲や内容の打ち合わせをEメールでするようになろうとは、当時のカズミ青年は予想すらしなかったに違いない。
来日コンサートで初めてラルフの生のプレイを目撃して浮かんだフレーズ、それは「鉄の爪」。弦をフレットに押さえ込むだけでも倍のパワーが必要な12弦ギター。それをかき鳴らす右手の指のタッチの、闘牛士のような優雅さと大胆さ。後日彼のインタビューで「この楽器を弾くのはトレーラーを運転するようなもんさ」というのを読んで少しは安心したが。ところでこんなエピソードがある。ギタリストばかりによるビートルズのコンピュレーションを作ることになって、ニューヨークにあるプロデューサーの
*2マイク・マイニエリの自宅を訪れた。僕のノミネート曲リストのトップにあった「ヒアゼア・アンド・エブリウエア」は、すでにラルフによって録音が済んでいることを知った。悔しかったが、送られてきたばかりのテープを聴かせてもらって思った。「この曲を彼のギターで聴けて良かった」と。
今回の共演では、そんな僕の彼に対する思いのたけをぶつけてみたい。こんな曲も、あんなレパートリーも... と夢はふくらむ。また純粋な即興・インプロビゼーションによる、ひと夜限りの音宇宙が出現するかもしれない。いずれにせよ今からこれだけは言える。ラルフと一緒にプレイする前の僕とその後のワタナベカズミは、明らかにギタリストとして変化しているだろうと。2台のギターが水戸芸術館の空間で一体どんな響きを醸し出すのか。もう一人の僕を客席に座らせて聴いてみたいくらいだ。
音楽部門注
1. ウェザー・リポート
70年代初頭から80年代半ばまで活動し、フュージョン・ムーヴメントの代名詞となったグループ。ジョー・ザヴィヌル(Key)とウェイン・ショーター(ts)がコ・リーダーとなり、さまざまな名手たちが入れ替わりメンバーとなって参加した。『アイ・シング・ザ・ボディ・エレクトリック』は72年の作品。この頃はミロスラフ・ヴィトゥス(b.)を加えたトリオとしての性格が強かった。後に天才ベーシスト、ジャコ・パストリアスが参加し、『ブラック・マーケット』『ヘヴィ・ウェザー』などの代表作を残す。
2. マイク・マイニエリ
ヴィブラフォン奏者であり、プロデューサー。渡辺香津美の『TO CHI KA』などをプロデュースしている。渡辺香津美の99年ニューヨーク・ボトムライン・ライヴ『ONE FOR ALL』にラリー・コリエル(gui)、矢野顕子(p)、ジョン・パティトゥッチ(b)、ミノ・シネル(ds&perc)と共に参加。
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