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ミニ・レクチャー
ピアノのための公開セミナー 講師:園田高弘
第8回 タッチについて 2000年1月16日(日)

最初にミニ・レクチャーということで、昨日はペダルのお話をちょっとしたんですけれども、これは最初にお話すればよかったんだと思うんだけれど、今日はそのピアノのタッチということについて、大まかなお話をしたいと思うんです。これは一番大切なことかも知れません。

で、ピアノを弾くのにどうゆう風にして弾かなければならないかといろいろやかましいことを言われますけれども、それはそれとして、全然、客観的に考えていただきたいと思うわけです。鍵盤ってのがこうゆう風にありますね。横から見ると、ピアノを弾くときには、大部分の人が上から垂直に鍵盤を押していると思うんですね。

だけどそれもすごくおかしな話でね、垂直に押すということがあるのならば、まさか、水平に押すっていうわけにはいかないから、水平ってことはないんだけれど、例えば、こうゆう風に前の方へ押すとか、こうゆう風に手前に引くように押すっていうことだって考えられるわけでしょ?上からだけじゃなくて、斜めに角度をこう。だから理屈で考えてそのくらいタッチのその押し方の角度があるわけです。

それと、今はただこういう風に上から押すという形で、あるいはそうじゃなくて鍵盤がこうあってですね、こうあって放物線を描くみたいにして、円を描いて、こうゆう風に撫でるみたいな形ですね、まさかこうやるわけにはいけないんだけれど、撫でるような形、円を。そうすると、その円の角度によってですね、つまり鍵盤に当たるところがですね、だんだん角度が変わってくる。

つまり紙1枚の変化をつけることができると。重さの変化を。紙を重ねていくようにだんだん深くするというようなことができるわけだ。ですからきのうもちょっと見てたんだけれども、みなさんこうやって、まるでキーパンチャーかコンピュータのオペレーターかなにかがキーボードを押すみたいな。あれはあんまりよくないですね。つまり、音質が均一になると考えているかもしれないけれど、意外とムラができる。なぜかならば、手の長さってのは全部同じ長さじゃないですよ、指の長さっていうのは。小指が短くて、中指が長くてっていうようなことになると、中指のところは強くなるけれども、薬指だとか小指とかいうところは弱くあたるという可能性があるわけでしょ?そうすると垂直に弾くというのは、なかなかうまく作動しないんではないかと、そう思うわけですね。

それとタッチにはもう一つ難関があって、ご覧になってもわかるように、鍵盤ってのは白鍵(白いところ)と、黒いところがあって、黒いところってのは(黒鍵は)出っ張ってますよね。そうすると、白鍵だけ弾いている場合にはいいけれど、黒鍵だけ弾くっていうことは―ショパンの<黒鍵のエチュード>ってのもあるけれども―まずまれなんで、そうすると、こうゆう風に弾くわけでしょ。しかも高い低いがあるわけですね、こうゆう風に。

だから和音なんてのの場合にですね、水平から弾いて、音を揃える、3つなら3つ、4つなら4つの、音を揃えるっていうことは、至難の技なんですよ。もし、写真で判定でもやってたら、どれかの指が先にかかって、どれかの指は後で押してるっていうことがありうるわけ。だからその違いがね、やっぱり和音やなんかの時にでてくるわけなんですね。和声なんかを弾く場合にそれが同時に打たれているっていうことが望ましいんだけれども、そこまで熟達するには、大変時間がかかる。

それと、理屈で考えてもわかりますけれど、鍵盤ではこんなに幅がありますよ。そうすると、真ん中のところは、比較的こうゆう風にして、鍵盤に沿って、打つことができる。しかし、端っこのところをこうやって打てば、斜めに打っているわけでしょ?そうすると、音のタッチの強さっていうのは斜めに打つ場合には変わってくるのはしょうがないですね。どのくらい変わるかはわかりませんけれども、一番上のところなんていうのはやっぱり随分違うんじゃないでしょうかね。ことに、右手でこうゆう風にやるとか。

だから、タッチというのは、基本的には、ある手の形が決まっていて、上から押すんでもですね。でもそれだけの違いがあるっていうことは常に考えてないと。だから音を揃えるっていうことは、非常に難しい。何で判断するかって、ようするに自分の耳で―先生の耳を頼りにしていても当てにしてもしょうがないから―自分の耳で判断するよりしょうがない。

そして、例えば白鍵で音階を弾くっていうのは、まあ比較的音を揃えやすいけれども、黒鍵が入ってきた音階っていうのは非常に難しいですよね。だけれども、ショパンのようにロ長調であるとか、それからホ長調であるとか、そういうものから練習したほうがいい。つまり、指の形からしてそういうものが適していると言うような人もいるし、それから例えば、こう回して弾く形がありますね。だから変ホ長調からミ、ファ、ソ、2、3、4とやってこう、2、3、1か、そういうようにして指使いをして回して弾くほうが、手首の練習になる、ということもあるわけです。

それと、そのタッチというのは、打つことも大切だけれども、脱力、力を抜くことが、もっと大切なんですね。われわれ、たくさんの音を弾く時には鞭(むち)の原理っていって、そう、鞭っていうのはわかるでしょうけれども、あれ、最後のところまで力いれてたんじゃ鳴らないですよね。打った瞬間に力が入る、ピシッとくるでしょ?その後は全然力が抜けているわけですね。打鍵でも同じことでね、こんなにしたって、いい音でるわけないんで、打った時に力が入ってて後が抜けている。それを何で調べたらいいんだっていっても、わかりませんけれどもね。

先生は昔―この話をしているとだんだん話ばっかしになっちゃうんだけれど―演奏会でね、終わった時に―ベルリンだったんですけれどね―盲人のおじいさんがやってきて「園田さん、今日はとても素晴らしかった。あなたはダンスを勉強したことはあるか?」って言うから、僕は「ダンスなんて僕、やったことない」と。「それじゃあ、禅を、日本人だから禅をやったことはありますか?」って。「そんなことはない」って言ったら、「へえー」って言って考えて、「あなたのピアノは耳で聞いてるかぎりでは、脱力がすごい素晴らしい」って、こう言うんですね。「脱力の練習したか?」って言うから、「そんなこともしたことない」って。「はあー」って。「では、自分はそういうことに興味があるんで一度、家に遊びに来てくれ」っていうようなことを言われてね。で、たまたま住んでいる所が近かったもんですから、そこへ行ったんですよ。そしたらね、その時初めてわかったんだけれど、彼は目が見える時は踊りをやっていた、何かのことで失明したらしいけれど。

で、その時に彼いわく、「この前はタッチのことを言ったけれど、あなたはタンブリンって叩いたことあるか?」って言うから、「そんなの、僕やったことない」って言ったら、「踊りでは叩くんだけれど、こう、タンブリンを持ってごらんなさい」って。で、こうやって持たされてね。そして「じゃ、人差し指で打ってごらんなさい」って、「ポォーン」ってやるんですよ。「中指で」、「ポォーン」って。「薬指で」。そうするとね、明らかに音が全部違うんですよね、タンブリンで打ってみると。「同じように打ってごらんなさい」って言われてね、そして、やっているうちに、「そう、それを練習するとタッチの練習になると思いますけど」なんて言われて(笑)。ああ、そういう考え方もあるかなあって。

その時に、彼は踊りの先生だから、こんな大きな球型の木製の玉があるんですね、それを持たされて、「これをねえ、持ってごらんなさいって、こうゆう風に上げてごらんなさい」って。落ちないように持っていないといけないんだけれど。そして、彼は自分で肩のところを触ってて、「ぜんぜん力が入っていない」って言うんですよね。「それをねえ毎日やるといいですねえ」なんて言っているわけだ。でね、僕も凝り性だから、その球を借りてきてね、1週間ぐらいやっていましたよ。こうやって、なるほどなあ、いいこと言うんだなあ、そん時にここに力を入れて、そしてグゥッとやるといいとかいう話をして。まあそれはどうでもいいんですよ。

タッチとは違うことを話して、今は雑談になっちゃったけれど、タッチと全然関係ないんだけれども。脱力はいかに大切かっていうことを彼が言っている。そして、「自分は音楽に合わせて踊ったんだけれど、音楽っていうのは、動いていく。律動がある。それはこうゆう風に水平に動いているんではない。自分はそう思う。そしてそれは必ずね、こうゆう風に弧を描いていくんじゃないか、だからドミレドレファミレミソファミ(メロディーを歌う)ってのは弧を描いているんではない。自分はそう思う。タタタタタタタタ(メロディーを歌う)水平に弾くのは間違いなの。その、弧を感じて、弾いた方がいいんじゃないか」と。「それから、それと反対にソミファソファレミファミドレミ(メロディーを歌う)っていうのは反対の弧を描いているのではないかと思う。自分はこれを感じているか感じていないかを、人の演奏を聞いていてね、すべてわかる」っていうんですよね。踊る人だからそういうことを言っているのかもしれないって思ったんだけれど、「すごいことを感ずる人だなあ」って、「霊感のある人だなあ」って、その人の話を、だいぶ遊びに行っては聞いていたことがあるんだけれども。

まあそれはどうでもいいとして、今度はみなさんの演奏しているのを聞くと、やっぱりこの律動感というか、その動きっていうのが、やっぱり感じる人と感じない人っていうのは、やっぱりあると思うんですよね。で、できれば、それはどんな円だなんて言わないでいいんだけれど、そういう、その動きってものを、音楽の中に感じて、体得して、体験して、演奏したほうがいいんじゃないかなあと思うわけです。これは、雑談です。タッチとは関係ない。

それで、タッチの話で、さっきちょっと言い忘れたんだけれど、こう、鍵盤はいつも水平には打てない。そうするとねえ、アルフレッド・コルトーっていう人が、いますよね、いましたね。フランスの大ピアニストだ。その人の奏法っていうのは、手をこう、寝せてやるんだけれど、だからさっき先生が言ったこうゆう撫でる形の奏法ですよ、別にこう上からやれって言うんですよ、こういうところで。

そうすると、紙一枚たしていく、紙1枚、2枚、3枚、4枚、5枚、がまの油じゃないですけれど、だんだん重力をかけていくやり方。あるいは減らしていくやり方。そういうタッチも必要だと。何もメカニックで上からばかし水平に弾いてる、垂直に弾くのは脳じゃないと。そして、キーが体から遠い場合には、そこまで手を持ってってからこういう風に落とせって。つまり、常に鍵盤に対して―遠いところにいけばいくほど、非常に無理があるわけだけれど―そうゆう風にして弾いているんだそうです。こういう風にして(ピアノを弾いて説明をする)。どの指でもそうゆう風にして弾いていた。たしかにコルトーはこうゆう風にして弾いてましたよ。

昨日のペダルのピアノの奏法の問題と併せて説明すると。だから明らかにこうやって弾くのとはタッチが違う(ペダルを踏みわけながら弾く)。なぜ違うかっていうのを、まあ本当か嘘かって思う人は鉛筆でこうやってキーを垂直に叩いてごらんなさい。なかなかそれを調節することはできないはずなんだ。だから、こうゆう風にしていくのは、ある程度は正しい。それから、(和音を弾く)っていう時に―まさか弱音をだす時に―まさか垂直して手を落としたのでは、なかなか音が揃いませんよ、これ。(ピアノを弾く)「モアー」っていうような音がする。だから、タッチにはいろいろ使い方がある、というお話を。長くなりました。



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