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ミニ・レクチャー
ピアノのための公開セミナー 講師:園田高弘
第6回 手の形や姿勢、打鍵の方法について 1999年12月5日(日)
始めにミニ・トークということで、昨日は原典版、楽譜のことについてお話したので、今日は、初歩の人に特に手の形についてお話ししましょう。手の形は、先生方からやかましく言われるんじゃないかと思うわけですけれど。「どういう形で弾いた方一番いいんでしょう」という素朴な質問があるわけです。
けれども、手の形っていうのは、みなさん千差万別で、長い人もあるし、短い人もいるし、それから肉づきのいい人もいるし、それから華奢な人もいるということで、一概には言えないんです。
あたくしが子どもの時習ったんでは、お子さんは卵を手のひらに入れて、そんな形でまるめて弾いた方がいいと言うようにして教わるわけです。だから、大きくなって、それがオレンジぐらいになったり、夏みかんのように、あるいはグレープフルーツのようになるっていうことも、考えられるわけで、まあそういう風に自然な形。だからあんまり直角でない方がいいんではないかと思います。
ところがそれだけで全部済むわけじゃなくてですね。ピアノという楽器はこのように大きいわけですから、演奏するということは手が側面にこう広がっていくわけでしょ?それから、子どもの時はまあそれで始めたとしても、だんだん体格も大きくなり、上背ものびてきた時に、あんまり手を丸めて弾いているってのも、かえって不自然です。だからその辺はあんまり強制しないで自由にしたほうがいいと思います。
それで、その打鍵の方法なんですけれども、鍵盤に手をくっつけて、ただ上から圧力だけで押すという形では、音の、強さとか輝きとか、それから脱力(力を抜く)ということがうまくいかない場合がある。
それをタッチといってますが、ある距離を置いてから打つという形になるわけですね。で、弾き手がだんだん大人になって、かなり高いところから手を落下させるようになって、腕の、手のひらの重力を全部かけると、いい音が、深い音が出るようになる。
そこで考えるのがですね、日本人のもみじのような華奢な手と、外国人のグローブみたいな大きな手とでは、手のひらの力といっても、重さといっても、すごい差があるでしょう。そうすると、日本人は、バサンと手を鍵盤に落としただけではあんまりいい音しないわけで、外国人のは、ボーンっていう、かなり弾みのあるような音がする。そこで外国人のような弾みのある音を出すためにはやはりある程度それ手の落下に伴って、ただ落下だけではなくて、打鍵という動作が加わってくるわけですね。だから、音の響き、それに伴なうそのタッチというのは、人によって全部やっぱり違ってくるわけです。
例えば、あたくしの子供の頃、リリー・クラウスなんて人が日本に来ました。その人はもう、ほんとに手が長くて、女の人だからこの辺から(上腕の付け根から)全部、ドレスの外に出てますよね。腕を真っ直ぐのばしてスゥーッとこういう風に弾いていたのを記憶してます。指先までのばして綺麗に弾くわけです。
それから、あたくしの先生のレオ・シロタっていうのもその上背が非常にあったし、指が大きく長いんですね。そうしましたら、真っ直ぐ指をのばすと、鍵盤の向こうの板にぶつかってしまう。それで人差し指、中指、薬指を丸めて、こうゆう風にして弾いているわけですね。また、いも虫のように指が太いわけでしょ、そうするとですね、白鍵と黒鍵の間のところがありますね、その間に指が入っちゃうと抜けなくなって…(笑)。だからそれを避けるようにみんなこういう風に弾いて、かにの横ばいではないけれども、手を横に拡げて弾いていたように思うんです。
例えば、ラフマニノフっていう大ピアニストがいますよね。あの人もすごい手が大きくてですね。手が鍵盤の奥の板にぶつかるわけでしょ、だからオクターブの時には指をみんな丸めて弾いていたっていうんですよね。そうすると、まあ、あまり美的ではないんだけれど、指先を丸めて、オクターブはこういう風に手を横に開いて弾いてたという記録もある。
また、ホロビッツは手の指が長くて、反対方向に反ってるんですよね。彼の場合、弾いているのを見ていると、指を伸ばしたまま指の腹のところで弾いている。だから、姿勢や手の形といっても千差万別だと思うんですよね。
話を初めに戻しますと、やはり、卵をにぎって、それをちょっと落下させるような形で弾くのが普通でしょう。ピアノはそのタッチという場合には、鍵盤を押すのと「脱力」っていうのが必ず必要なんです。パァーンと打つ時には力が入っているけれど、すぐ脱力がないと、ほかの鍵にうつる時に、指先から手首、肩へ全部力が入ってくるのです。
だからなるべく自然に弾くっていうことが一番いい。そして姿勢は、ロシアのピアニストみたいに全部が必ずしも直角にやっているわけじゃない。フランス人は、サンソン・フランソワなんかそうだし、コルトーなんかでもそうだし、みんなこう、少し前傾の姿勢で弾いています。
例えば、アンドレ・フォルデシュっていうハンガリーのピアニスト。その人はお腹がもうこんなに膨れていて、真っすぐ座ると、鍵盤がお腹にくっついちゃうんですね。だから、わりと離れて座っていて、弾く時には前傾にして弾くんです。その力たるや、ピアノの鍵盤の両わきを持って、コンサート・グランドをグッと手前にひっぱるんですよね。それが、彼のトレードマークでした。ステージに出てきて、座って、ピアノの両側に手をかけて、グッとひっぱるんですよ。椅子をピアノに寄せるのではなく、ピアノを自分の方に寄せる。そのくらい筋力があるんですよね。みなさんは絶対真似しちゃいけないです。脇腹や背中を痛めますからね。でも、そのくらい力がある。その時にはみんな笑ってた。鍵盤をこうゆう風に半円形にして、体を回してやったらいいでしょうなんて話をしたんだけれど。そういう人もいる。
例えばアルフレッド・コルトーなんていう人の打鍵は、(ピアノ学習としては上級の話ですけれどもね)鍵盤に対して、つねに指は垂直に打たなければいけない。だから高音部を打つ時には、腕を拡げてそこまで指を持っていって、こうやって打てって言うんですよね。もちろんこの瞬間は、脱力してて、打つ時に力が入るわけだけれど、4の指であろうと、3の指であろうと、5の指であろうと、5なんて一番難しいですよね。手を遠くまで拡げてこうやって打つわけですからね。だけれどこの、打つ瞬間までには、絶対に力が入らないようにしながらこう打って。コルトーは演奏会で、こうやって見ててもね、そういうことをやるんですね。
それから、次に例えば、作品演奏中に、あるフレーズで音楽的なテンションがあって、その次にそのテンションが解決する音ってのがありますよね。そうした箇所を弾くときに日本人はこうやって手を丸めたままでやろうとしますけれど、それは至難の技ですよ。例えばフランス系の人達っていうのは、手を手前に引くような形にして、音を弱くするという奏法を使ってますね。
だから、いろんな奏法と、弾く形があると、思ったらいいでしょう。しかし基本になるのは、だいたい手を丸めて自然の、どこにも力が入っていない形で打つのが一番いいわけですね。打鍵の瞬間に力が入って、すぐ脱力する。
そして、例えば、レガートでやる時は、指を転がすように弾くし、スタッカートの場合には、手を簡単にはずむようにするとか、いろいろありますね。オクターブの場合には、手首を使ってオクターブをする場合と、上腕全体からこうやってオクターブする場合と、2通りありますね。横に開いてゆく形もあるけれど、立ち上がるような姿勢で弾く形もある。いろいろあるわけです。
それを一概に、あれがよくて、あれがだめだっていうやり方では、学習者には先が見えない。あるいは、どこか痛める。腱鞘炎になるのはみんな奏法が悪いんですよ。ですから、それは柔軟に考えていいと思います。まあミニ・トークですからあんまり、微に入り細に入り、その企業秘密を明かすわけにはいかないわけで。次の時には、例えばペダリングとかそういうような話もしようと思います。
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