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三浦はつみインタヴュー
ランドマークタワーや大観覧車などで横浜の新名所となった「みなとみらい21」地区に、昨年6月、
横浜みなとみらいホールがオープンしました。
水戸芸術館で9月27日にリサイタルを開く三浦はつみさんは、このホールの専属オルガニストでもあります。
このホールの事務室でお話をうかがいました。
―三浦さんは、このホールではどういう仕事をしていらっしゃるのですか。
三浦: 週の半分くらい、時間は不定期で来ています。
仕事の内容は、大ホールに入っているフィスク社製のオルガンの調子を、練習しながらチェックしたり、
このオルガンを使った企画を考え、アイディアを提供したりしています。
―大ホールは2020人収容とのことですが、どういう企画をなさっているのですか。
三浦: 主なものは昼のコンサートと夜のコンサートです。
夜のコンサートでは、オルガン音楽でも、その中核にあるレパートリーをしっかりと聴いていただくことを目的としています。
ある程度オルガン音楽に慣れていらっしゃる方に向けたもので、世界を舞台に活躍中のオルガニストに出演していただいています。
―昼のコンサートというのは?
三浦: これは毎月一度開いている「1ドル・コンサート」のことで、1ドルあるいは100円を払えば入れます。
ホールの周辺地区で働く方々や、昼の時間帯にしか外出できない主婦の方々などを対象にして、
12時10分から50分までの間やっています。
こちらは入門者むけで、わかりやすい旋律的な曲、親しみやすいタイトルの曲、楽器の個性を発揮できる曲などをいれるように工夫しています。
出演するのは中堅のオルガニストが中心で、いつもたくさんのお客様に来ていただいています。
私は出演者にフィスク社製オルガンのカラフルな音色が発揮できるように選曲をアドヴァイスさせていただくこともあります。
―三浦さんご自身も出演されるのですね。
三浦: リサイタルは今年4月に開きました。このオルガンはフランスの近代音楽にとても向いているので、
ラングレ、フランク、ラヴェル(<マ・メール・ロワ>の4手用編曲!)、
ヴィドールというプログラムにしました。
昼のコンサートは、次回は8月18日になります。モーツァルトの「キラキラ星変奏曲」のような曲も弾くんですよ。
元来はピアノ曲なんですが、今回はオルガンで変奏ごとにいろいろな音色を使ってみたいと思っています。
―さて、今回のリサイタルには、
「近現代フランスのオルガン音楽で、そのエッセンスを伝えるようなテーマ性のある内容」ということでお願いしました。なかなか硬派なプログラムになりましたね。
三浦: 普段はこういう風に自由に選曲をさせてくださることはあまりないんですよ。
それだけに嬉しく思っています。
―水戸芸術館のリサイタルは、これまでドイツ系の音楽、バロック時代中心のプログラムが多かったのです。
そこで、今回は近現代フランス音楽をお願いしました。
水戸芸術館エントランスホールは、横浜みなとみらいホールのように大きくはないので、
いくぶん冒険的なプログラムでもやれてしまうという利点があります。きっと緊張感の高い、
鮮烈なリサイタルになるのではと期待しています。
ところで、今回のプログラミングの意図を、三浦さんご自身の言葉で説明していただけますか。
三浦: 基本的には、ちらしの裏面に書いていただいたとおりです。前半は神秘的な音楽。
ジャン・アランは宗教音楽ではありませんが、宗教音楽にも通じるような敬虔な厳しさがあります。
―三浦さんは1996年に新宿文化センターでアランだけで一晩のリサイタルを開いていらっしゃいますね。
私もテープを聴かせていただきましたが、すばぬけて鋭敏な感覚を持ち、詩的な作曲家なのですね。
三浦: その才能はメシアンも賞賛していましたが、不幸なことに第二次大戦のために29歳で亡くなりました。
これでフランスは大きな才能を失ったと思います。
彼は音楽だけではなくて、絵を描き、詩も書くという多才な人でした。
彼の音楽には早世した作曲家に特有の趣があるように思います。いろいろなタイプの曲を書いていますが、
どれも非常に高い完成度をもっています。それから、メシアンと同様に、東洋趣味の影響も感じられます。
―そのあとにメシアンがきて、コンサートの前半は終わります。
三浦: メシアンの音楽は、ひとりの人格を背後に感じるのが難しいほどに広大です。
また、非常に知的でもあります。近寄りがたいところもありますが、宗教的な深みを感じます。
―後半はより人間的な、親しみやすい作品が並んでいますね。
三浦: 前半よりも少し前の時代に属する人たちの作品です。
ヴィドールやヴィエルヌという作曲家は、一般の人にはまだ馴染みが薄いかも知れませんが、
一度聴くとその良さが分かっていただけると思います。
―水戸芸術館のオルガン・プロムナードコンサートではしばしば採りあげられていて、
親近感をお持ちの方もいらっしゃるかも知れません。最後には重厚なフランクのコラール第1番ですね。
三浦: フランクは、バッハとともに私がもっとも尊敬する作曲家です。
宗教的な深みがあるばかりでなく、人間的な共感が持てるのです。
フランクを弾いていると、作曲者の苦しみや想いが伝わってきて、まるで彼自身と語り合っているような気がして、感動します。
フランクの作品は、分析してみると、ひとつかふたつ、せいぜい3つくらいしかモティーフはないのです。
たったそれだけの素材をすばらしく複雑に知的に組み立てて、あれだけ大きな作品にまとめてしまうのです。
弾くたびに、その構成がよくできていると感嘆します。
フランクという人は、おそらくバッハと同じように、生涯たゆまぬ努力と研究を続けて、音楽そのものを構成する普遍的な法則のようなものを見つけていったのだと思います。
―三浦さんの演奏を聴いていると、バッハを弾くときには様式感があってバッハらしいし、
アランを弾くときには、全く別人のようになります。そしてフランクを聴くと、
冷徹なほどに鋭敏なアランを弾いた人がどうしてこんなに人間的で気高いフランクを弾けるのかと驚いてしまうのです。
もちろん、演奏家は誰でもその作曲家、作品にふさわしく弾き分けるものですが、三浦さんの場合、
その純度の高さが際だっているように思います。
三浦: おそらくボストンのニューイングランド音楽院に留学して、林佑子先生から学んだことと関係しているのではないでしょうか。
林先生には96年4月から98年2月まで師事しました。
この間、オルガニストに求められるあらゆる要素を徹底的に吟味し、曖昧さを完全に排除するということを学びました。
作品を弾くにあたって、フレーズのひとつひとつの意味を、作品分析、時代背景の研究、当時の楽器の機構など、
どんなに細かな視点からでも徹底して吟味し、自分の解釈を組み立てていくことを学びました。
―そうですか…。三浦さんの演奏からは、まず最初に音色の美しさ、音色に対する鋭敏な感性を印象づけられるのですが、
聴き進むうちに、構成の仕方が非常に論理的というか、理に適っていて、明確な作品像が浮かび上がってくるのを感じます。
三浦さんのこの個性は、そうした徹底的な分析があってのことなんですね。
三浦: 林先生は、私の数百倍も繊細な感性で作品からいろいろな問題を引き出してきて、
それらを徹底して解決してから演奏するということを求められました。
―林先生についた96年といえば、三浦さんは、ジャン・アラン作品だけによる意欲的なリサイタルを開き、
サントリーホールの開館10周年企画「ヨーロッパ・オルガン音楽の5世紀」では20世紀の音楽を担当するなど、
すでに日本を代表するオルガニストのひとりという評価を受けていらっしゃいましたはずです。
三浦: 私も自分はフランス音楽が得意だと思っていました。でもこういう林先生のもとで厳しい勉強ができたのは、大きな収穫でした。
林先生は日本人ばなれした、むしろアメリカ的な感覚で、客観性と明晰さをそなえた「わかりやすい」解釈をもとめられていたのだと思います。
―先ほど、三浦さんの演奏が作曲家、作品に高度に同化し、
作品そのものになりきってしまうという印象をお話ししました。これは、別の面から見れば、音楽家としての三浦さんが、
根本的なところで非常に謙遜でいらっしゃるからではないかという気がします。
確か、三浦さんはクリスチャンでいらっしゃいましたね。
三浦: はい。幼児洗礼(幼児期の入信の儀式)を受けています。聖公会(イギリス国教会)なんですが、
音楽的にはカトリックに通じるところが多いと思います。
子供の頃から聖歌は歌っていましたし、オルガン音楽を聴くこともできました。
―なるほど。言葉ではうまく説明できないのですが、三浦さんの演奏から受ける印象は、
三浦さんが信者でいらっしゃることと関係しているように思います。
ところで、三浦さんが特にフランスの音楽がお好きなのはどうしてなのでしょうか。
三浦: ひとつは、音色の美しさです。
もうひとつは、フランスのオルガン音楽がグレゴリオ聖歌をもとにしているということです。
私はグレゴリオ聖歌の基礎にある教会旋法(長調や短調が誕生する以前の音のならべ方)がとても好きなんです。
―音楽はしばしば音楽家の人柄を伝えるものです。ご本人を前にして申し上げるのも不躾ですが、
三浦さんの演奏される音楽は三浦さんのお考えやお人柄があってこそのものだということを実感しました。
きょうは貴重なお話をありがとうございました。
(1999年7月5日、横浜みなとみらいホール、訊き手:音楽部門 飯森豊水)
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