水戸芸術館の設計


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磯崎 新 磯崎 新 Photo by Sakata Eiichiro

 水戸は、馬の背状の台地に展開した街である。東北側に、那珂川が流れ、南 西側には入り海のなごりである千波湖がある。台地の突端は旧城跡、その下に 駅があり、ここから商店街が台地上を縦に連なる。旧五軒小学校の跡地である 現在の水戸芸術館の敷地は、その商店街の背後の住宅地に接している。地形的 には、台地のほぼ中央にある。

 都市的な視点からみて、塔と広場がこの施設の由来を語るだろう。市制施行 百周年の記念として、水戸芸術館は構想されたのであるから、塔はその記念性 を明示するもっとも適切な手段である。台地のうえにさらに百周年を意味づけ る100メ−トルの高さをもつことになった。台地の周辺にひろがった新市街地 からも容易に認知できる。広場は伝統的に日本の都市には欠落していたもので はあるが、市民のいこいの場のひとつとして要望されていた。回廊をめぐらし、 大部分を芝生でおおい、道路側には市樹である太い欅の木が3本植えられてい る。更には、水に深くかかわる水戸の地名の由来にちなんで、広場の奥に噴水 がもうけられている。約20トンの重量をもつ自然石を斜材で空中に吊り下げ、 これに左右から水流のジェットを浴びせている。いまではここは訪問客の記念 撮影のスポットとなっているだけでなく、夏期の子供達の水遊びの場ともなっ た。 広場
水戸芸術館広場

 水戸芸術館は、680人収容のコンサ−トホ−ル、517人収容の円型劇場、 1200平方メ−トルの展示室を持つ現代美術ギャラリ−、それに78人収容 の会議場とエントランスホ−ルが加わった一種の芸術複合体である。これらの 施設は、それぞれ独立して活動できるように分散されているが、これはその施 設の独自性と固有性を充分に発揮できるようにするためで、内部のデザインや 雰囲気もすべて異なっている。
2階回廊から
水戸芸術館2階回廊からのながめ
これらが回廊を介して広場を取り囲み、いっぽ うでは街路にそって配置されているので、その外観は、強い幾何学的立体の特 性を露出しているとはいえ、古典主義的建築の手法に習って、人間的なスケ− ルが醸しだせるように分節された。ここで用いられている主要な素材は割肌タ イル、石材等の硬質のソリッドなもので、これは内部の部屋が開放性を嫌うタ イプものであることによるが、同時にこれらの単位となっている施設を構成す る輪郭線をかたちづくる幾何学性を明示するという表現上の意図に基づいてい る。立方体、直方体、円筒の他、ド−ム、ピラミッド、ア−チなど、比較的重 力的に安定した形態によって組みたてている低層部に対して、塔は意図的に対 立的なデザインがなされている。ここでも、その基本形は正四面体で、これを 順々に積みあげていくと、その稜線が三重ラセンになるという構成上の特性が 強調されている。それは限りなく同形のものが延びていく無限性(ブランク− シの構想にその着想を得ている)が、不意に中断した姿になっており、その点 が地上100メ−トルになっている。これは更に延長されていく時間軸を表現 している。このそれぞれ異なった角度を持つ正三角形の面の集積は、チタニウ ムのパネルで覆われている。その表面は、微妙な外光を集めて反射させ、太陽 の位置の変化、天候の具合などに応じて千変万化する。

 低層部の外部デザインにみる古典主義的な建築の特性と、塔のデザインにみ られる非歴史的な形態と新しい素材による表現とが、広場を介して、両極端と して、対立をしている。そこに生ずる空間的(形式上の)、時間的(歴史性と して)な対立をうむ緊張が、この複合体のデザインの主要な目標であった。

 コンサ−トホ−ルは、六角形の平面をし、観客席はゆるやかな勾配をもって 3つの領域に分割され、ワインヤ−ド型アリ−ナの変形をしている。舞台背後 にはコ−ラスにも用いられる客席がある。この空間に3本の大きい柱があり、 内部空間を分節しているが、実はこれが中央のド−ムを支えている。このド− ムの下部は舞台上からの音響の分布をよくするため、逆の弧をえがいており、 かつ気積と角度を調節して、音響の質を変える目的に上下させることができる。 コンサートホール
コンサートホール

劇場
劇場
 劇場は、輪郭は円型で3層のギャラリ−がとりまき、最上階は舞台上まで延 びている。中央のアリ−ナ部分のうち、丁度半分が舞台、残部が客席で、その 頂部は舞台機構を収める。外側からは、ここが、円筒の上に立方体の一部とし て姿をのぞかせている。舞台は全面的にセリ機構をもち、上演の意図によって その輪郭を変えることができるが、原則的にはスラスト・ステ−ジで、シリン ダ−状の内部空間の中央で演技がなされるような観客・演技者の関係が成立す るように編成されている。

 現代美術ギャラリ−が、自然光を最大限に採り入れながら、その光分布、部 屋のサイズ、プロポ−ションなどが異なる独立した部屋を連鎖させている。そ のスカイライト部分は、遮蔽システムにより調光できる仕掛けをもつ。現代美 術が空間的インスタレ−ションを指向していることに対応するよう、内部は 壁・天井ともニュ−トラルな白色ペイント仕上で、床は木製フロ−リング。

 メイン・エントランスホ−ルは以上の3つの施設に共用される位置にあり、 道路側と中庭側を通り抜けによって結びつけている。ここにはパイプオルガン が設置され、その演奏を聴きながら目的の場所へと移動できるのだが、特定の コンサ−トのために独立した使用も可能である。 エントランス・ホール
エントランス・ホール

 この他に会議室、キャフェ、レストランショップが付属し、それぞれ別種 の内部デザインがほどこされている。

 これらの施設は、それぞれ運営する芸術監督が早くに任命され、その将来の 仕上の構想に基づいて細部のデザインが決定されている。その点において、地 方自治体がしばしば陥る箱物が優先する現状において、まったく独自の手続き を経て設計・施工された点は特筆されていいだろう。それが完成後3つの部門 が上演の質を高め好評を受けている大きい要因をつくっている。その点におい て、地方自治体がつくる文化施設の、設計・運営の新しいモデルを提供できた と自負していいと思われている。


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