私論コーナー「現代アートを語る」

Myコンテンポラリーアートとの遭遇:

「意味のない行為」


 友人の学芸員が企画した『ボロフスキー展』(注1)で展示された「1から無限へのカウンティング」(注2)はコンテンポラリーアートを理解するきっかけとなった作品です。当時の私には「良く解らないけれども、印象に残った」作品でした。ここでいう「良く解らない」とは、「初めて見るタイプの作品であり私のアート観の中になかった」ということです。「時間があれば誰にでもできる」作品であり、「意味の無い行為」に思えたからです。しかしながら、「おもしろく思えた」ので、その作品を忘れることができずに「考えさせられる」ことになりました。作品そのものは価値があるとは思えなかったけれど、その作品について考えることはとても大切なことだと直感していたのです。

 いろいろな事を考えさせられましたが、それをここで少し紹介します。「絵とか彫刻は上手であること、個性的であることなどが作品の価値になるが、この作品は全く違うタイプのものにちがいないが、そこが解らないな?誰でもやろうと思えばできることではあるが、『できること』と『したいと思うこと』は当然違うが、なぜ『これ』が作品として認められているのだろうか。一見、ナンセンスに見えるが、なにかありそうだ。そうだ、これはひよっとするとナンセンスな行為を意味する作品なのかもしれない。ナンセンスといえば、我々の日常生活そのものである。組織の中で分業化が高度に進み、おもしろくもない仕事の毎日である。……この作品は鑑賞するためのものではなく、何かを示唆する作品なのだろう。」

 アートにアクセスするプロセスは「正しいか否かという基準」より、「はじめに自分の感覚を言葉に変えることにより自分の考えを表現する」ことから始めて、次に他者との考えと交わり自分の考えを修正することです。アートの世界へ入りやすくする上で、特にコンテンポラリーアートを理解するうえで頼りになるのは知識ではなく感覚が重要です。というのは、特定のアーティストに関する解りやすい参考資料が乏しいことが多く、またカタログを読んで解る人は専門家の水準にあり、一般の人に要求するのは難しいからです。経験的に言えることですが知識で理解しようとした場合、コンテンポラリーアートの世界を徐々に重圧と感じることになります。なぜなら、この世界は多様すぎるからです。繰り返しになりますがコンテンポラリーアートへの入り方は「感覚を表現する」ことから始めるのがよいようです。

 当時の私の個人的な心情に呼応するかのように、私は作品と対話をしていたのです。その後、作品に対する解釈は変化はしましたが、思考するための作品との最初の出合いとなった作品として忘れることができません。

まとめ

1.初めて見る作品は、はじめは解らないのは当然。

2.解らなくても印象に残れば自分にとって価値のある作品となる。

3.その場で解らなくても、自分にとって意味のある解釈を探し続けること。

4.美術とコンテンポラリーアートは違うという認識が必要。


(注1)1987年4月11日〜6月7日 東京都美術館、主催= 東京都美術館朝日新聞社

(注2)カタログ JONATHAN BOROFSKY,P.26より抜粋「この作品は8.5×11インチの大きさの紙を積み上げたもので、高さはおよそ4フィートあります。《1から無限へのカウンティング》という題名で、数えた数字が増えるにしたがってページは上に重ねられます。………このカウンティングの作品はいわゆるコンセプチュアル・アートの時代の頂点にあるものです。というのは単にペンや鉛筆と紙を使い、毎日実践するという多少の意志を必要とするだけだからです。これは私にとって実行可能な、かつ心と鉛筆と紙をつなぐ最も純粋で直接的ないわば修練といえるものでした。非常に連続的でコンセプチュアルな仕事なのです。何事にもまどわされることなく、すべては事前に計画したとおりに行われるのです。私がしなければならないのは朝起きて鉛筆をとり、それまでの数字を確認して、次の数から書き加えていく事だけです。1971年、カウンティングを始めて2年後ですが(この間ほかの仕事はしませんでした。)……〈ボロフスキーの言葉1〉」

*本ページの内容は、1998年3月31日発行当時のものです。



[Vol.9 CONTENTSへ]
[168 トップページへ] [ボランティア トップページへ] [ファン倶楽部ページへ]
[現代美術センターへ] [水戸芸術館トップページへ]


本ページweb版「168」は、水戸芸術館現代美術センターボランティアと水戸芸術館webstaffとの共同作業により完成しました。本ページに関するお問い合わせも、水戸芸術館webstaffが承ります。
Copyright ©1999 ART TOWER MITO. All Rights Reserved.
Mail to: webstaff@arttowermito.or.jp