特 集

キノコに還った発明家

ジョン・ケージ(1)


1994年11月3日から95年2月26日までジョン・ケージが作曲した展覧会「ローリーホーリーオーバー サーカス」が開催されました。今世紀を代表する前衛作曲家?フルクサス・ムーヴメントを引き起こした現代美術家?あるいはキノコ研究家?―様々な分野でその奇才を発揮し、多くの人々を巻き込み影響を(今なお)与え続けるJ・ケージ。今回はいくつかのキーワードからその多様な側面の一部を観てゆきます。さて、ジョン・ケージという人間のトータルなイメージがここから立ち上がりますかどうか?


■クルニクル

 1912年ロサンゼルス生まれ。18才、ヨーロッパを放浪。19才、作曲・絵画・著述活動開始。21才、カリフォルニアでシェーンベルクに師事、ゼニアと結婚。24才、シェーンベルクと決別。25才、がらくた打楽器バンドを結成、マース・カニングハムに出会う。30才、ニューヨーク移住、エルンスト、モンドリアン、デュシャンらと知り合う。33才、鈴木大拙の講義を聞く、インド哲学を学ぶ。37才、パリ行、ブーレーズと出会う。38才(1950)、抽象画家らと交流、図形楽譜を着想。

1951、易に興味、チャンス・オペレーションを発想。1952、「4分33秒」初演。1954、キノコに興味。1962、初来日。1964、カニングハム・ダンス・カンパニーと世界巡演。1974、「キノコの本」出版。1981、5回目の来日、軽井沢でデュシャン展記念コンサート。1983、「竜安寺」作曲。1987、オペラ「ユーロペラI、II」初演。1989、京都賞を受ける。1992、死去80才。

■音と音楽

 ケージがなっていたかもしれない職業が作曲家の他に2つある。1つは「牧師」(彼の祖父がそうであった)、もう1つは「建築家」である。結局、宗教にも建築にも身を捧げる決心のつかなかったケージが、シェーンベルクに尋ねられたとき、(多少はずみもあったらしいが)「人生を音楽に捧げるつもりである」と答え、それ以後音楽に集中するようになる(21才の頃)。

ケージによれば音楽の目的は「魂を働かせ、精神を向上させること」であり、それには「この世のあらゆる物に宿るスピリットを解き放つこと」(エックハルト)が必要だそうである。まるで神秘主義者の言のようだが、要するにそのためには既成の“音楽”だけでなく、この世に存在するあらゆる“音”が彼には必要であった。その後彼は様々な物に宿る音(精神)を聴くために、音楽の新たな地平を積極的に切り拓いていった。

その実践の課程で、「平方根公式」と呼ばれるリズム構造、弦の間に物を挟んでピアノの音色を全く変えてしまう「プリペアド・ピアノ」、「チャンス・オペレーション」という作曲法等が生み出される。そういう意味で彼は何よりまず、父親ゆずりの発明家であったのかもしれない。

コンピュータを操って、自分で作曲できるという作品は大人気。

■偶然性と易

 偶然性、チャンス・オペレーション、或いは不確定性は、ケージが易の影響の下に考え出した作曲技法である。と言っても、すべての人が認めているわけではない。反知的で不合理であるとする非難などはまだいい方だろう。まったく無視する人も多いなかで、まじめにこの技法を用いている人もいる。しかし、音素材を客観的に集める合理的で合法的な規律正しいシステム、と聞かされても具体的にどうするのか、作曲家ならぬ我が身にはよく分からない。易経を読んでの影響とはなにか。まさか筮竹を振ったとは思えないが、その頃コイン投げでの作曲を試みているから、当たらずと言えども遠からずかも知れない。偶然性(チャンス)ばかりが強調されているが、ケージも水彩画を作ったことがあるマウンテン・レーク・ワークショップの主宰者レイ・カスによれば、チャンスの下には戦略的なチョイスがあったとのこと。易(チェンジ)と合せて頭韻が3つ揃った、これも偶然か。

<ミュージアムサークル>には、茨城県内の博物館や美術館の所蔵品をチャンス・オペレーションで選んで展示。高瀬舟の模型や着物など、日本的なものが並んだのもこれまた偶然のなせる業。

*本ページの内容は、1995年3月1日発行当時のものです。



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